【エッセイ】2回目のひとり旅

こういう世の中になって、外で仕事をするというのも久しぶりな気がする。

病院から「休養してください」と伝えられ、最初は部屋で鬱々としていたが、このままでは心が潰れてしまいそうだったので、とりあえず車中泊という形で、何泊かだけの旅に出ている。

旅と言っても、大学時代に住んでいた街にちょっとの間だけ滞在するだけのことだ。

これまでであれば、そんな事をしても何も珍しくもなんともなかった。

しかし、コロナが流行ってからは、こんな風に過ごすのは、以前よりも躊躇するようになってしまっていた。

だからこそ、今回はひとりでひっそりと第2の故郷とでも言うべき場所へ戻って、しばしの暇を頂いている。

ひとり旅とも言えるだろう。

僕は旅好きだけれど、思い返してみるとそれほどひとり旅をした事がなかった。

過去に、一度だけ九州へとひとり旅して以来、誰かと過ごすのが好きだと知ったのだろうか、それ以降は大学の友人や、パートナーなどとしか旅行はした事がなかった。

では、過去のひとり旅が散々な思い出だったかと言えば、まったくそんな事はなかった。

むしろ、懐かしく振り返ることのできる思い出のひとつだ。

その旅は、23歳の時、大学の研究室でインターンシップに行くことになったのがきっかけだった。

だから、実際は、「旅に出よう!」と言って旅に出たわけではなかった。

インターンシップは7月から8月終わりまで長期間かかるとされていて、その時期は実家の手伝いをする事が通例だったから、僕はまったく乗り気でなかった。

だから、最初は教授に断りの連絡を入れようと考えていたぐらいだった。

しかし、インターンシップも学業や経験のひとつだとすれば、それを家業の手伝いと単純に比較することはできず、僕は悩んだけれど新しい経験の方を取った。

それが結果的に最初のひとり旅になったのだ。

少し話は変わるが、僕は水曜どうでしょうが昔から好きだった。

兄の影響で、10歳ぐらいからずっとどうでしょうを見て育った。

どうでしょうを見ていたのは、その時だけではない。

10歳からずっと、本当に飽きもせず見続けて、今32歳になった。

実に、20年以上もファンで居続けている。

水曜どうでしょうには、サイコロの旅という名物企画がある。

ファンの人なら知っていると思うが、サイコロの旅には長距離の深夜バスが付き物であり、10時間以上もバスに乗り続ける出演者の表情というか、やられ具合は、生の笑いだった。

どうでしょうの話は、ぜひまた別の機会にまとめてしたいものだ。

ここまで話せば、なんとなくどうして僕がインターンシップの話と、水曜どうでしょうの話をしたのかわかるだろう。

そう、僕は長距離の深夜バスに乗りたかったのだ。

東京ー博多間を繋ぐ深夜バスを一度経験してみたかったのである。

旅に出たいきっかけなんて、そんなものだ。

後から思えば大した理由でもなんでもない。

結果的に、深夜バスはただ疲れるだけのものだった。

拘束時間が長いし、夜の移動時間は景色も暗くてよくわからない。

「〇〇を通過している」と言われて、東北生まれ東北育ちの僕がワクワクしたところで、景色のひとつの観られないのである。

しかも、勇み足で往復チケットを購入してしまったから、帰りのバスに乗り込む時には、かなりの準備をしたが、やはり大泉さんと同じようにやられた。

だから、散々な思い出だった。

でも、笑い話にはなった。

経験にもなった。

これ以上の事があるだろうか。

この時の経験は、僕だけの経験だから、どれだけ親しい友達でも、家族でもわからないものである。

今回の旅だって、そうなのだ。

この街は、友人と過ごした街だし、家族も、かつてのパートナーとも来たことのある街であり、それこそ目新しい事なんて何もない。

でも、たったひとりでこの街を訪れて見た景色や、感じたことは、誰もわからない。

ただ僕だけの経験なのだ。

深夜バスのように、笑い話になるかどうかは微妙なところだけれど、フラれて落ち込んで病んで車中泊したと言えば、ちょっとは面白い経験だったとなるかもしれない。

さて、ひとり旅に戻ろうと思う。